かめかめ・かめラ
東北紀行 〜駅前食堂の旅〜
(福島県〜山形県〜秋田県〜青森県〜北海道)
(2004/8/7-10)

【第一日目】
いざ、福島へ!
(2004/8/7)

 3年ほど前だったかと思うが、「駅前食堂」という本に遭遇し一気に読んだ。本のタイトルが示すように東北地方の駅近くの食堂での食事のみならず人情や地域性にスポットをあてた秀逸な本であった。いつかは、この本に掲載されている食堂のいくつかに行ってみたいものだと思っていた。そんなチャンスがふと訪れた。

◆旅のはじめは若月@新宿から◆
 2004年8月7日、午前中の仕事をかたずけてから、伊勢原駅から小田急線の急行で新宿へ向かう。東北地方へ向かう前に、まずは新宿の“駅前食堂”に寄ってみることにしよう。思い出横丁である。

 
思い出横丁入口 ◇ 若月

焼そば 350円

 いくつもの店があるが、若月に寄った。焼そばと景気付けにビールを注文して一杯やった。親子がやってきて、お父さんは焼そばを、小学生くらいの子供はラーメンを頼んでいる。お父さんは
「こんなに暑いのにラーメンでいいのか?」と聞くと、
「いいんだよ!」としっかりと答えている。
 よほどラーメンが好きなんだなぁ(笑)。私の隣のオジサンはビールを2本空けてから、さらに日本酒を飲んでいる。別のオジサンはビールに餃子に冷やしトマトで顔が真っ赤になっている。人それぞれ、土曜日の昼下がりを過ごしている。猛暑が続くが、そんなことお構いなしののんびりとした時間がここには流れている。


JR乗車券
◆いっきに十綱食堂@飯坂温泉へ◆
 JRの乗車券を取り出す。東京都区内から函館までの総延長距離997.3km、料金が12,180円というものである。有効期間は6日間もある。新宿駅は当然ながら東京都区内駅なのでここからこの乗車券が使える。新宿駅で「東武伊勢崎線の羽生〜加須間が落雷のため不通です」との構内放送が聞かれ、これからの旅への影響を心配する。
 東京駅からは東北新幹線で福島へ向かう。東京駅では上越新幹線の到着が遅れているという。しかしながら予約しておいた“やまびこ”は遅れることなく定時に発車した。夏休みだからだろうか、家族連れが多い。穏やかだった天候が急に変わったのは大宮を出たあたりであった。突然の雷と大雨。何十回と稲光を見た。雨は強くて車窓風景をすべて消し去るような勢いである。こういうのを“篠つく雨”とでも言うのかな。宇都宮でも依然と強い雷雨であったが、郡山あたりから少しずつ弱くなってきた。今年は集中豪雨が多いから、先ほどの豪雨の被害が出なければよいのになあと思う。福島に着く頃には雨はほとんどあがっていた。傘は一度も開かなかった。
 福島駅に降りて駅の売店のおばさんに
「飯坂温泉へ行く列車の乗り場はどこですか?」と尋ねると、
「こちらは西口ですから、駅を出て階段を降りて、地下通路で東口に行ってください」
 と福島なまりの言葉で懇切丁寧に説明してくれた。どうも反対側の西口に出てしまったようだ。さっそく地下通路を通って東口に向かう。これから乗るのは福島交通飯坂線。終点は飯坂温泉である。

 
飯坂線と阿武隈急行線の電車のりば ◇ 飯坂線車両

 
阿武隈急行線車両 ◇ 福島交通飯坂温泉駅

 電車のりばは阿武隈急行線と同じだった。ホームも同じで初めての人にとっては間違いやすい状況である。私が乗る車両は味気ない銀色の塗装がしてあった。飯坂線は全長わずか9.2kmであるが12もの駅があり駅間距離は短い。地元客らしき人たちでほぼ満席。笹谷駅で列車交換を行い、桜水駅には車両基地があった。車内には開業80周年記念切符の販売がお知らせされていた。買い物客や学生さんなどの乗り降りが続き活気がある。しばらくして終点の飯坂温泉駅に到着した。
 さて駅から歩いてすぐの十綱(とつな)食堂はすぐに見つかった。ホッとする間もなく、のれんがしまわれたままなのを発見。引き戸も閉まっている。あれっ定休日かな。資料によると「定休日:不定」となっている。運が悪い。でもバックアップとして道をはさんだ反対側にある仙臺屋(せんだいや)も用意しておいたので、そちらに行こうとするが、まだ未練がましく十綱食堂の店の前をゆっくりと歩いてみる。すると店の中に人の気配がするではないか。勝手口から中に声をかけてみる。
「ごめんください」
「はい」と、駅前食堂の本の中の写真に写っていた女性がこちらに顔を向けた。
「十綱食堂さんですよね」
「はい」
「今日は営業されていますか?」
「はい、してますよ。今、開けますね」と。

 
かつ丼の店 十綱食堂 ◇ 店内

 
店名入りの丼 ◇ ソースかつ丼 800円

 のんびりしているんだな。夜は午後5時から営業しているとのことだったが、お客さんがこないと店は開けないのかもしれない。店は想像していたよりもずっと狭くて、二人用のテーブル2卓と、小上がりに四人用の卓袱台が1卓あるだけである。店内のメニューには、かつ丼 800円、親子丼 700円、玉子丼 650円とある。というかそれだけである。駅前食堂の本には美味しそうなソースかつ丼が載っていたので、
「ソースかつ丼はできますか?」と聞くと、
「わかりました」と答えがかえってきた。
 出来上がるのを待っていると、出前の岡持をもった女性が店に帰ってきた。ふ〜ん、出前もやっているんだ。そして肉屋さんの女性が肉を届けに来た。人の動きが多く、活気のある店である。この店は昭和26年に創業され昭和40年からはかつ丼専門店になったとの記載がある。古くから愛されていたのであろう。
 しばらくしてソースかつ丼が運ばれてきた。店名入りの丼が店の心意気を静かに主張している。たくわんと福神漬けが小皿に入って戴っている。丼の蓋をあけると、なんともいえない心地よいソースの香りが漂う。美味しそうである。肉は柔らかくてたっぷりあり、キャベツはシャキシャキとした歯ごたえを保っている。そしてそれらをまとめている自家製のソース。甘味や酸味が利いているが突出もしていない。“洋風カツ丼”っていった感じだ。スラスラと胃袋におさまり満腹になった。お勘定は800円。
 支払いの時に、
「あのぉ、2-3年前に駅前食堂っていう本を読んでからこの店に一度は来てみたいと思っていたんですよ。今日は来られてよかったです」と話すと、
「それはそれは本当にありがとうございます。今日はどちらへお泊まりですか?」とちょっと照れくさそうな笑顔で答えてくれた。
「これから福島市内へ戻って明日は山形方面へ行く予定なんです」
「お気をつけていってらっしゃい」
 お腹とともに心も和んだところで店を出る。


仙臺屋食堂

 駅へ向かう前に、反対側の仙臺屋食堂の写真を撮る。今日は寄らないけど今度機会があったら寄るからね。飯坂温泉駅へ戻ると18時25分発の電車は出たばかりで、次は18時50分発である。駅前の橋の名前を見たら十綱橋と書いてあった。屋号はここからつけたのだろうと推測する。さて福島駅へ向かう電車に乗り込む。来た時は2両編成であったが今度は3両編成である。先頭車両に乗り込むと反対側のドアにロープがかかっている。


開かないドア

 ホームが短いために開かないドアがあるようだ。お客さんは最初はそれほどでもなかったが、途中から続々と乗ってきてたちまちのうちに満席となった。浴衣姿の若い女性が目立ったが、なにか催し物があるのだろうか。


わらじ祭

 福島駅につくと駅前が賑やかで騒がしい。どうも“わらじ祭”というお祭りが始まるようだ。最近各地で行われている、みんなで踊るお祭りのようで先頭グループにはショッキングピンクの衣装の“やよいダンス”であった。


部屋からの風景

 今回はホテルも“駅前ホテル”にしようと思い、駅から見える辰巳屋ホテルに宿をとった。列車も見えるよい部屋であった。今回の旅の初日は無事に終了した。
【お店のデータ】
<若月>東京都新宿区西新宿1-2-7 03-3342-7060 10-25時 日曜定休
<十綱食堂>福島県福島市飯坂町1-2  024-542-4464 12-14時・17-19時 不定休
<仙臺屋食堂>福島県福島市飯坂町字十綱町3-2 024-542-2810
【旅程】
伊勢原(12:45)〜新宿(13:43) 小田急小田原線 急行 570円
新宿(15:10頃)〜東京(15:25頃) 中央線 快速 12,180円(函館までのJR運賃)
東京(15:36)〜福島(17:14) 東北新幹線 やまびこ116号 4,080円
福島(17:35)〜飯坂温泉(17:56) 福島交通飯坂線 360円(9.2km)
飯坂温泉(18:50)〜福島(19:11) 福島交通飯坂線 360円(9.2km)
【宿泊】ホテル辰巳屋 6,500円
【1 いざ、福島へ!】  【2 奥羽本線で秋田へ】  【3 五能線経由で青森へ】  【4 津軽海峡線で函館へ】  【5 函館市内電車】